〈歌舞音曲〉→〈舞〉踊 その1
私たちにとって踊ることは、滅多にない出来事のように思います。フォークダンスや盆踊りや若い世代のストリートダンスにしろ、こうした舞踊一般に比べれば歌うことの方が、はるかに簡単ですし、リズムをつかみ、見よう見まねで体を動かすことは、思いのほか難しいものです。
私たちが生きているということは、肉体と精神がともに活性化されている状態であり、このことは、あまりに自明です。
精神は思考する機能であり、もともと非人称(私やあなたというものではない)ですから、当の私を私たらしめているものは、その人の魂(たましい)としかいいようのないものになります。そして魂は考える対象ではなく感じるものであり、感覚的にしかとらえられないものです。
実は舞踊は、このちょっと得体のしれない魂を、何者かのフリをまねし、空間に満ちているリズムをつかみとることで私たちの肉体からとり出す振舞(ふるまい)なのです。
こうして踊ることによって、人ははじめて自分たらしめているものを感じとることができ、またその同類(の魂を持つもの)に出会うこともできるのです。
自分探しの為には踊るのが一番なのですが、人前でわざわざ披露することは、あまりに恥ずかしすぎる行為です。
そこで舞踏のかわりに歩くことをおすすめします。通勤でも買い物でも散歩でもハイキングでもいい、自分の歩行のリズムを体感しながら歩いてください。歩行する、その姿にはすでにその人固有のスタイル(個性)が出ているものです。
そう、歩行そのものがすでに舞踊なのです。